Thursday, August 19, 2004

カラシニコフ

 新聞連載の時から注目していた記事が単行本化されたので、早速Amazonで注文しようと思った。もとより私に新聞を購読する、という習慣はないが、その日の朝コンビニに出かけて、一番できのいいところの新聞で、童心以外のものを購入することにしている。朝日新聞のその連載は、これは絶対に出版されるであろうというだけの凄みがあった。

 しかし、帰省などでうかうかしている間にずいぶんなベストセラーと化したと見え、何とAmazonでは在庫切れになってしまった。

 こういう時の対処法はいくつかあって、座して重版が刷り上がるのを待つか、あるいは大都市に住む利点を最大限に生かして自らの足で探しに行くか、それともインテリっぽく別のネット書店で置いていないかどうか確かめる、などといったところだ。

 もとより座して何かを待つ性分ではない。かといってあまりにネットのみに依存しすぎるのも不健康だ。

 最近のリアル書店(つまり、小売り店舗を持っている書店)の中にはネット上に在庫状況を表示しているところも多い。そこで一旦その書物の在庫を確かめてから、東へ20km係走って件の書物を手に入れた。

 阿呆と笑わば笑え。


 その本の名前は「カラシニコフ」という。

 本の前半は、その名の通りAK-47に代表されるロシア製突撃銃、カラシニコフについてのルポタージュである。中でも注目は、設計者であるミハエル・カラシニコフ中将とのインタビューである。

 数年前、Scientific American誌の特集では、全世界に出回っているAK系のライフルは4千万丁とのことであった。これは米国製M-16系、ベルギー製FN-FAL系、ドイツ製G3系のライフルを遙かにしのぐトップである。
 ところがこの本によると、現在世界のAKライフルは1億丁あるという。下手をすると今日の飯を手に入れるより、弾を手に入れる方が遙かにたやすい状況が生まれるわけだ。実際に、腹を空かせた武装民兵が、集落を襲撃してその数日間の食事にありつく、といった事例が本書には紹介されている。

 後半はソマリア、南アフリカに代表されるアフリカ諸国におけるNGO、またODAのあり方といったテーマで展開する。既にバラ撒かれてしまったAKライフルを回収するために、NGO、あるいは国連といった組織は何をしてきたのか?そしてそれは果たして成功と言えるものだったのか?国際援助資金といった代物は、最後にどこへ流れていくのか?

 我が国の人は兵器について語ることを好まない。それは、病院の外の人々が病について語ることを好まないのととてもよく似ている。



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 本書の他、邦訳されている銃器ルポの傑作に、ジョン・エリス著「機関銃の社会史」がある。その中から一節を引用する。(以下斜体字部分)

「第2章 産業化された戦争」より
(略)マクシムは、機関銃の開発に取り組むようになった理由について、次のような説明をしている。「一八八二年、以前アメリカで知り合った一人のユダヤ系アメリカ人にウィーンで再会したが、そのときにこう言われた。『科学や電気学なんてくそくらえだ!もし君が一財産つくりたければ、こいつらヨーロッパ人がもっと簡単に互いの喉を切り合えるようなものを発明しろ』」

 果たして、彼ハイラム・マクシムはそれを実行した。結果、水冷式マキシム機関銃は、日露戦争に於いて最も日本人を殺害した兵器として、「カタカタ」の名で恐れられたのである。

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