以前に受けた地域医療総合医学の臨床講義で、「家庭医の備えるべき条件」というのを聞いたことがある。
・内科から外科、皮膚・耳鼻科までたいていの病気を診てもらえること
・いつでも診てもらえること
と並んで、
・ずっと診続けてもらえること
というのがあった。
つまり、一人の患者に対し、一週間やそこらで担当する医者が変わったのでは、患者と医者の信頼関係が醸成されにくい、ということだ。その意味から行くと、5年、10年と一人の医者は同じ患者を診続ける事が理想的である。
ところが、これは若い医者にとっては非常に高いハードルだ。
それは、医者というのもまた、数多くの「場」を経験することによって成長する職業だからである。若手の医者にとって、多くの職場(診療科や病院など)で様々な経験を積む、というのは、自分の描く「よりよい医者」に近づくための必須なステップである。
だれも最初から「だめな医者」になろうと思って医学部の門をくぐるわけではない。みんな、できることなら「良い医者になろう」と思っているに違いないのだ。
「良い医者になろう」という医者自身のエゴと、「良い医療を受けたい」という患者自身のエゴの均衡点で実際の医療は成立する、というのはずいぶん前から私が立てている仮説である。
今春医学部を卒業する世代から、臨床研修は事実上義務化となり、その多くがスーパーローテート(内科・外科・小児科・精神科などを数ヶ月ずつ研修する方法)をプログラムにした病院を選択した。
だが結局のところ、一見「どんな疾患の人でも、一通りの診療ができる」といういわば家庭医をたくさん養成するプログラムに見えるスーパーローテートも、実は「一応の診療はできるが、何か一つの専門を持つ医者を養成する」という各大学の医局が建前としていた医師像と、たいして変わりのないものをつくろうとしているのではないか。
となると、本当の意味で地域が必要としている(、とされる)家庭医は依然として不足し続けることになり、10年経っても地方の医者不足は解消されないのではないか、と考える。「若い体力のある医者を地方に」という願いは、叶えられないのだ。
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