Friday, January 14, 2005

ウイルス性腸炎考。

 なんだか最近ロタウイルスだのサポウイルスだのSRSVだのと、「ウイルス性腸炎」に関する話題が盛んである。

 今回は老健施設で死者が出たと言うことで、マスゴミ各社も大いに取り上げているのだが、たとえ食中毒にしろ、健康な成人がウイルス性腸炎で死に至ると言うことはなかなか稀な出来事である。

 また、同じ飲食店で食事を取った人々が同じ症状を呈している、というような食中毒を示唆するような情報がない限り、実際にウイルス感染を証明する努力(糞便培養など)を、腸炎に対して行うことは少ないのである。ウイルス性腸炎に特徴的な所見は少ないし、画像や血液検査などで特異的なものがあるわけでもない。(だから老健施設の理事長先生も診断に時間を要してしまったのだろう、と僭越ながらお察し申し上げる。)

 そこで、「ウイルス性腸炎」は事実上、「よくわからないハライタ」に対してつけられてきた診断名であることも否めない。

 たとえば19歳の少年で、急に腹痛と下痢を起こしたと言って来院しているが、見たところは健康そうで、腹部所見もグル音低下ぐらいで、発熱もなく、血液も特に所見を認めないといった症例を考える。鑑別診断としてはそれこそ炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎など)から「過敏性腸症候群」まで、いろいろとある。だがこの年齢の患者に対して大腸ファイバーまでやる意味は、あまりない。もちろん症状が反復したり、便に血が混じっていたりする場合は話が別だが。

 一言で言えば、そういった「おなかを壊す」はcommon diseaseの一つであり、「かぜ」と同様、病院に来ても来なくても大して予後は変わらないものの一つである。しかし、現に患者が心配して病院に来てしまっている以上、何とか病名をつけてしまわなければならない。でないと点滴一本、整腸剤一包にも保険が出ない。

 こういったときによく使われるのが「ウイルス性腸炎」だったりするのである。

 逆に言えば、こういった「あわてる必要のない腹痛」と、腹膜炎や急性膵炎、イレウスといった「本当に処置が必要な腹痛」をきちんと見分けられるかどうか、ということが医者の力量ということになる。


 それを踏まえた上で、例年この時期、センター試験の季節になるとフッと頭をよぎることがある。

 今年は57万人近くの受験生が出願しているそうだが、これだけの数がいればそのうち何人かは、試験当日緊張のあまり寝過ごす奴がいるに違いない。真っ青になった受験生のがまず考えることは、1週間後に行われる「センター試験再試験」を何とか受験できないか、ということだろう。当日急いで受験会場へ赴いたとして、一科目でも受験してしまえば、当日分の全科目について再試験を受ける権利を失うことになっている。

 従って、何とかして医者の診断書を取り、東京での再試験を受験するのが得策なのだが・・・。こういった患者が来たとき、「ウイルス性腸炎」は実につけやすい診断名だろうが、どうやら今年に限って言えばそうでもなさそうだ。「また集団食中毒か」とニュースになってしまう。

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 もちろん、診断が疑わしいものを診断書に記載するのは医師としての責任に反すると言えるし、その対価として金品を受け取れば収賄罪や業務上背任に問われることになるだろう。

 しかし、自分も浪人時代を経験し、一年間を受験対策に費やすということの重さを知っている。医者になって、思い詰めた少年の顔を前にしたとき、当日の日付の入った診断書を書く罪と、将来ある若者の、何十分の一かの人生の時間を奪ってしまうことの意味、果たして自分はどっちをとるんだろうなあ、と考えてしまう。人生この先頼むからそういう患者に出会いませんように。

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 私も国家試験の当日寝過ごしたりしませんように。1日目はいいとして、2日目、3日目の朝とか疲労がたまってて危ないと思うなあ。他の大学とか4年生が起こしてくれたりするんだろうなあ。いいよなあ。

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