小児臓器提供、容認を…自民調査会が法改正2案を提示[Yomiuri-On-Line]
腎臓移植希望者選択についての経過報告[日本臓器移植ネットワーク]
私はいろいろと考えたことを「ためる」たちなので、すっかりはてなアンテナからは見放されている。
日本で「小児移植を認める」ということは、「小児の脳死を認める」ということと実は表裏一体なのだが、そういうことをきちんと説明している報道機関は少ない。
そもそも、日本における「脳死」という概念は、移植医療を行うがために持ち込まれたきわめて奇異なものなのである。こういうことを医者だけで決めてはいかん。もっとそこのあんたも議論してくれ。
そんなわけで、数週間前のニュースについて考えたことをここに書いてみる。
先月、臓器移植ネットワークが移植登録者選定のプログラムミスから、移植リストのトップにいた患者から腎移植の機会を奪ってしまった。
だいたい、マスコミが伝えた論調はそんなところだ。
本来ならば移植リストのトップにいた患者さんには大変気の毒な事件である。しかし、移植医療が抱える本質的な問題が、この一件から見えてくる。
まず第一に、そもそも移植リストとは何か。
今回明らかになったのは、HLA(Human Leukocyte Antigen)という組織適合性を表す指標を扱うプログラムに問題があったということだ。これは移植を行った際、その腎臓が移植を受ける患者(レシピエント)の体に生着する可能性がどれだけあるか、ということを知る手がかりになるのである。
では、移植リストの順位はこのHLA適合性のみによって決まっているのか。そういうわけではない。
今、ここに一つの腎臓Xがある。この腎臓Xに対して、移植を受ければ腎臓が90%の確率で生着する患者Aと、移植を受けても60%の確率でしか生着が期待できない患者Bがいたとする。ところが、患者Aはあと5年間は移植を受けずとも持たせられる状態であり、患者Bは移植を受けなければ後3ヶ月も生きられそうにない、とする。
果たして腎臓Xを、今移植すべきなのはどちらか。
HLAというのは、こうしてみるとずいぶん「医者の都合」からみたファクターだ、といえないこともない。
だが、適合性、余命(実際には透析の発達によって、腎臓の場合は必ずしも「余命」といえない場合があることを書いておく)のほかにも、移植リストの順位を決定する変数は、様々あるのだ。その中には、腎臓の大きさとレシピエントの体格など、どちらかといえば科学的な要素のほかに、「どれだけ臓器を大事にするか」や「移植後に免疫抑制剤を欠かさず飲み続けられる精神的・経済的状況にあるか」といったことも入ってくると言われている。
言われている、というのは、これらの要素それぞれが、移植リストの順位ににどの程度の影響を及ぼすのかは一般に公開されていないからだ。
今回の事件において、HLAの適合度算出ミスというのは、どれだけの意味があったのか。私は非常に大事なことだと思うが、現在の報道からでは知ることのできないことである。「陳謝」の映像よりも、こういうことをもっと公にしなければならないのではないか。
第二に、移植には少なからず「運」の要素が関わると言うことである。
もし、あなたが心臓移植を必要とする患者で、移植リストに登録されていたとしよう。仮に今日あなたがリストの2番目にいたとして、明日あなたが1番目に上がる場合には、二つの可能性が考えられる。
一つは、今日1番目の患者に適合するドナーが見つかり、移植手術が行われること。
二つ目は、1番目の患者が今日死ぬことである。
前述のように、腎移植の場合は、現在では必ずしも「死の回避」という概念と結びつかない面もある。
だが、未だに心臓、肝臓などの病気では「移植か死か」という患者がたくさんいる。こういう患者さんにとっては、「移植リストのトップにいたのに移植が受けられなかった」という事態はとうてい受け入れがたいものとなるだろう。
医学は確かによく発達した。そのせいで、「死」というものは、あたかも医療の失敗であるかのように語られることが多い。むしろ「死」を運命として記述することは、社会が嫌うようになっている。
しかし、現代医療の最前線ともいえる世界にも、人の生き死にに「運」が関わることは避けられないのである。それを忘れては、(手塚治虫の)ブラックジャックに出てくる刀鍛冶に怒られるだろう。
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私が大好きなデンゼル・ワシントンの「ジョンQ 最後の決断」[Amazon.co.jp -DVD-]は、「そのスジ」の人にはオープニングの5分で映画全体のストーリーが見えてしまうという作品である。しかし、わかっていながらも2時間の間、いろいろと考えさせられることがあるという意味で、十分に楽しめた。
ジョン・Qが持つベレッタM92Fのセイフティの挙動がおかしいとか、そういうことには目をつぶってほしい。
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